「還暦の祝は厄除けであるから、当人自身が善根になることをすべきである」。 これは、日野開三郎先生が、『唐代邸店の研究』(私家版、昭和四十三年十二月)の「後記」で述懐しておられるご尊父のお言葉である。これに対し、先生は、「なさけなくも善根とやらを積む力など露カケラほども有たない今の私には、『何とかの一つ覚え』に甘んじて平素研究の一つくらいを纏めてみるのが精一杯の所である」と考え、同書の執筆を思い立たれたのだという。こうした生まれたのが、学士院賞の栄誉にも輝いた『唐代邸店の研究』『続・唐代邸店の研究』の巨篇である。 本書は、尊敬する日野先生の顰みに倣い、みずからの還暦記念にまとめたものである。先生の『唐代邸店の研究』正続二冊に及ばぬこと遠いが、積善とは無縁の小生が今できるのは、やはり、日頃の研究を一書にまとめることくらいである。「現状と課題」と銘打ちながら、現状の負の部分ばかりを追ったネガティブな論考が大半を占めるのはいささか悲しいが、それにはそれなりの理由のあることとしてご宥恕をねがっておく。 |