|
ISBN4-88978-039-4 |
田原 八郎著 |
四六判 150頁
定価 (本体1,300円+税) |
|
|
|
新選組武士道 「退くな!」の美学 |
新撰組はたった五年のあいだだけ存在した、この国の歴史でただ一つの剣戟職能集団であった。 しかしそれは、けっして「傭兵隊」と言いきれるものではない。
新撰組は剣戟を職能とした渡世集団であり、その職能の高さを劇場的な戦闘によってアピールしつづけた。 新撰組への共感は、なによりも江戸期の武士道によって棚上げされていた剣戟を復活し、それを「向こう受けさせた」ことによっている。 職能渡世は、花柳界の芸者芸人、歌舞伎役者、相撲取り、医師・・・などのように、なによりも大衆の「受けを狙わなければならない」
新撰組は、「真剣による剣戟」というカタギではない職能をもっていた。 それを都大路で存分に披露して、歌舞伎の荒事役者のような喝采を浴びたのである。
鎌倉以来の武士の職能とは、鍛錬と実戦との積み重ねと、勇気と知略と体力、それに人の血脈にしみついた古来からの伝統に支えられたものであり、なによりもすぐれた才能を必要とするものであった。
江戸期の武士道によって棚上げされた、そうした武士の伝統的職能が、徳川の旗本八万騎によってではなく、農民・脱藩者・浪人からなる新撰組によって、二五〇年の歳月を隔てて蘇った。 が、せっかくよみがえった日本人の「武」が、武士の世を根こそぎ引っくり返した薩長の近代戦術と近代技術と近代兵器によって、無残にも敗れた。
鎌倉以来の中世の「武」は江戸期の武士によってではなく、一匹狼の職能渡世たちの集まりである新撰組によって蘇った。 そして新撰組は、人々の「受けを狙う」エンターテイナーとして幕末の世に鮮やかな剣戟の火花を輝かせた。それは幕末という闇の世の空に咲いた、打ち上げ花火であった。
新撰組は薩長の近代兵器によってあっけなく滅んだ。しかし滅びが急速であればあるほどに、人々の記憶のなかで鮮烈となり、やがて新撰組の「兵どもの夢のあと」がさまざまに語られることとなった。
しかし、それは「滅んだあとまで人を楽しませる」というプロのエンターテイナー、生死をかけた剣戟のエンターテイナーの魂の所業なのである。
新撰組は、歌舞伎渡世が舞台演技で行った「流血の斬りあい沙汰」を、現実の都大路で生身で行い、それで喝采を浴びた。 本書はそうした「剣戟のエンターテイナー」の魂の実録である。 |
|