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ISBN978-4-88978-070-3

喜多村 拓著

予価 (本体1,800円+税)

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古本商売ウラオモテ

古本屋開業入門

思い立ったが凶日
どうして古本屋になりたがるのでしょうか。
最近、古本屋開業講座が大入り満員という報告がなされていました。
神田神保町も一時は古本屋の数が減って危ぶまれたときもありましたが、いまは、逆に起業家の若い人たちが、どんどんと店を出して、百二十店台から百七十店近くと逆に増えています。
新聞やテレビでは、これまでの不景気でリサイクル業が増えていて、好調だと報道していましたし、どこの街を見ても、確かに古本屋チェーンと、リサイクルセンターは華々しく、スーパーマーケットの潰れた空き店舗を安く借りて、次々に進出してきています。
一見、時代の寵児と思われる古本屋ですが、大手の進出の陰では、従来の小さな古本屋は次々に姿を消しています。
わたしのいる人口三十一万の青森市だけをとって見ましても、十年前に古本も扱っている店は三十店舗ありましたが、ブックオフ、ほんだらけ、ブックマーケットなどの進出により、現在では十店舗よりありません。 十年で三割になってしまいました。
その内訳を見ても、全国チェーンの大型店が七店舗。 従来の小さな古本屋は三店舗という内容です。
こういった傾向は全国の都市にも見られると思います。
華やかで、目立つ存在となった古本屋も規模の論理で、持てるものが繁盛し、零細な店は閉店を余儀なくされている現状で、新しく古本屋でもやってみようかという安易な気持ちで飛び込むのは危うい気がします。
うちの古本屋にも毎年、何人かの人たちが、古本屋をしたいと相談にみえますが、わたしは、脱サラしてやると、いままでより所得が落ちるかもしれません。
それでよかったらやりなさい。 と、あまり勧めません。
中にはそれで食えなくて、夜のアルバイトに行っている店主もいるくらいですから。
わたしたちの仲間を見ても、羽振りのいい古本屋のおやじにお目にかかったことはありません。
まして、古本屋で蔵を建てたという話しだとか、二号さんを囲っているというような景気のいい話も聞いたことがありません。
貧乏してもそれが好きならおやりなさい。 それでひと儲けしようと思うならやめたほうが賢明です。
起業家というのがいまも話題になり、サラリーマンを辞めて、一国一城の主になろうとする若い人たちが後を絶たないのは見上げたものです。
自分でこの荒波の中で生きてゆこうというのですから、その志にはわたしも拍手を贈りたい。
古本屋が伸びているというのは、数字でも出ていますが、その内容は、果たして古本というものの流通でしょうか。
新刊書店は、十数年前に三万店あったのが、現在は小規模店の閉店が相継ぎ、一万九千店と七割に激減しています。
古本屋に関しては、売場面積だけは増え続けているのは事実ですが、それは古本以外のスペースが多いのです。
大手の古本チェーンに行ってご覧になったら判ると思います。
売場の半分はゲームの中古と、DVD、ビデオソフト、音楽CDなどで占められています。また、お客の人だかりしているところもそんなコーナーで、コミックや雑誌のコーナーにぱらぱらとお客が立っている程度で、専門書や文芸書のコーナーには、人っこ一人姿が見えないということをよく目撃しています。
もし、あなたが、これから古本屋をやろうとして、本当の古本だけで食べてゆこうとするなら、そのがらんとしたコーナーでやってゆこうということなのです。
余所の柿が美味しく見えるのは、錯覚と誤解です。
わたしの友人で、婦人服のプレタポルテをしていた老舗の二代目が、本業が縮小していったので、今度はフランチャイズで古本屋をやりたいんだが、どんなものだろうかと、店に相談に訪れたことがありました。
五年前でしたが、周りの古本屋が次々に閉鎖に追い込まれていたときです。
「やめたほうがいい。 事業として考えると、うまみのある商売ではないよ。 本体が駄目だからと、そんな気持ちで別の商売がどうしてうまくゆくと思うわけ?」 実に冷たい云い方ですが、どんな商売でも根底には同じものがあると思っています。
街には次々とブディックが開店してゆきます。 それを見ていれば、わたしには、逆にアバレル関連が羨ましい業界に思えます。 そんなに儲かるものなのかと。
ところが、友人は、どこも一年二年と保たないで、潰れているよとにべもない。
いろんな業界の事情というものは、そこに入っているものでなければ判らない、見えないものもあります。
みんな、余所が美味しそうに見えるというのは、錯覚であり誤解であることが多いのは、うわべだけを見ているからです。
その友人は、フランチャイズの本部の店や支店で研修して、三年前に撤退した郊外型の大型店の空き店舗を安く借りて、一号店を出しました。
それは、わたしが想像していた古本屋とは程遠い店でした。
確かに本も扱っていますが、活字本はほとんどありません。 マンガが主体でそれも売場面積の半分もありません。
店の中は子供や若者たちの玩具箱をひっくり返したようなものです。
ガシャポンの玩具から、トレーディングカード、中古ゲームに楽器、ビデオ、CD、DVD、フィギアにアニメのポスター、ぬいぐるみから電化製品、駄菓子まで売っています。
そこは若者たちのリサイクル市場ではありますが、古本屋とは云えません。
それはそれで、全国にいまものすごい勢いで広がっている新しい形態のリサイクル店とは思います。
昔から、女子供を相手にすると儲かるとは申しますが、それで大損をするというのも定説です。
飽きやすいこと、流行に左右されやすいということ、そこは、当たれば大きいが外れたらゴミの世界です。 非常に不安定な市場だといえます。
わたしも最初のころは、いろんなものを子供たちから買って、ゲームもビデオも中古レコードから楽器まで売ったときがありました。
ゲームは、ことにくそゲーと呼ばれるものがあり、新発売と同時に面白くないという評判で、定価八千円のゲームでも酷いのになるとわずかひと月で百円まで暴落しますが、それでも売れません。
コミックもここ半年くらいで出た新古本は売れますが、中途半端に古くなると、誰からも見向きもされません。
必要のないものは、一円でも売れません。終いにはゴミとして処分するよりないのです。
女子供を相手にしている商品は、古書のように値上げするというものは稀で、その多くは日々値下がりを続けます。
ですから、鮮度のいいうちに早く売らなければならなくなります。 まるで、生鮮食品を取り扱っているようなものです。
それに、人気商品は他店でも引き取りが高いから、定価の一割で買うというわけにはゆかず、よそが五割で買い取りしていると聞くと、うちは六割でということになり、客が高く買ってくれるほうに廻りますから、終いには、一割も儲けがないところまでゆきます。
それが売れなかったら悲惨です。 一月後には半分に下がり、さらに二月目にはその半分と、買った値段を割り込みます。
音楽CDもベストテンに入っている間はいいですが、過ぎてしまえば、聞くのも恥ずかしいものです。
流行った歌ほど大量に入ってきます。 そして、大量に余るのです。 それらは多くが廃棄処分になります。
ですから、いつもびくびくしながら、仕入をすることになります。
経営コンサルタント氏は、いつもいい話しかしません。 薔薇色の明日より見せません。
ここでは、こうした暗い現実から話してゆこうと思います。